吸血鬼の一族、アイゼン家の当主デュランは、イギリスの貴族ロウィーナ姫と結ばれ、東ヨーロッパのメドヴェキアで幸せに暮らしていた。しかし… 1724年、領地間の領土争いが起こり、デュランは軍隊を率いて出陣。わずか5日で勝利を収める。しかしその頃、メドヴェキアでは、元領主の一族の陰謀、よそ者を快く思わない閉鎖的な住民の手によってロウィーナが囚われの身となり、魔女として火刑に処される。女吸血鬼・ルサリィの手で助け出され、アイゼンの塔に保護されるも、瀕死の重傷を負い、まもなく死亡してしまう。 急の知らせを受け、デュラン帰還、ロウィーナの元へかけつけるも、それは彼女が息をひきとった直後のことだった。その命が蘇るならと自分の血をロウィーナに与えるため、吸血行為を行うデュラン。ロウィーナは目を覚ますが、それはわずか数分の効果しかもたらさず、自分の亡骸をリンデンの木の下に埋めてほしいと頼み、ロウィーナは再び眠りへつく。ロウィーナの微弱な心臓の鼓動音は停止し、やがておとずれる完全な静寂。 ロウィーナを失った悲しみ、人間への憎悪により彼の秘められたる力を一気に爆発させ、デュランはその時完全に正気を失ってしまった。そしてその恐るべき破壊能力はやがてすべてを滅ぼそうとする業火へと変わり、メドウェキア全土が炎に包まれた。 悪鬼と化したデュランは、ヴァンパイア一族と人間の区別すらつかなくなり、彼を諌めようとする一族の者すら次々に切り捨てた。彼の腹心の友であったラガシュ、およびアイゼン一門のヴァンパイア達は、己の臨界体力を削ってアイゼンの塔の最上部にデュランを封印する。しかし、デュランは竜(ヴァラウール)の血族、すなわちヴァンパイアマスターの血を引く強大なヴァンパイアである。一門の力を結集しても、彼を一時的に封印するのが精一杯であった。 そして150年以上の後、愛と憎しみのあまり正気を失い塔の中に閉じ込められた狂気が、その封印を解こうとしていた。 アイゼン一族の中でデュランに拮抗する力を持つものは、もはやクリストファしかいない。 いよいよ塔の封印が解け、デュランが目を覚ます日が近づいた。 竜の一族に代わり一門の指導者として150年を過ごしたラガシュは、美しい青年の姿となったクリストファを呼び、一つの司令を与える。アイゼンの塔より目覚める異形の吸血鬼を滅ぼすようにと。 そして彼は願った。デュランが心静かに眠る日が来ることを。 |