天を支える霊峰須弥山(しゅみせん)、それを取り巻く四大部州、四大海。この世界では、考える力あるものはひとしく――それは神仙、妖怪、そして人間――ある一つの遊びにとりつかれていた。

である。

麻雀が強いものは皆の尊敬を集め、弱いものは己の腕を磨くことを第一とした。武芸は軽んじられ、すたれていった……。そのため、ひとたびいさかいが起これば、力によらず麻雀勝負で解決するのが、いつしか当然のこととなっていた。



五百年前――まだ力が重んじられた頃――天界を騒がせた一匹の猿のことは、神仙や妖怪たちの間では未だに語りぐさになっていた。十万の天兵をたった一人で退けたというその神通力とは、一体どれほどのものだったのか。
噂では如来に調伏(ちょうぶく)されてのち仏法に帰依、ある僧侶の弟子となってこれを守護しているという。 この僧侶、唐を発ち遙か西天まで経を求める旅をしているが、もともと如来の弟子金蝉子(こんぜんし)の生まれ変わりで十世も修行した穢れ無きありがたい身。もしも妖怪がその肉の一切れでも食らえばたちまち神通広大、不老長生間違い無しという、まさに彼らにとって垂涎(すいぜん)の的になっていた……




さてもこの僧、陳玄奘(ちんげんじょう)、取経に赴いて後は改め唐三蔵と、如来の罰をくだされ五行山(ごぎょうさん)下に封じられて五百年、身動き一つ叶わぬ哀れな猿、尊大にも自らを斉天大聖と号した孫悟空との、縁(えにし)の始まりを、まずはご覧あれ。


back 二索 next