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調査報告書


太陽系移民について


 木星圏には2種類の人間がいる。政治家と木星人である。

 政治家とは木星統治府で働く人間のことであり、彼らは基本的に火星人である。なぜなら木星統治府は火星政府の下部組織であり、火星政府によって任命された火星の国家公務員が派遣されてやって来るからだ。彼らは木星圏の包括的な政治方針を決定し、実際にそれらを実行する各市政府職員を任命する。カリスト市長をはじめとする各市政府職員は、当初火星の国家公務員を含めた木星人たちの中から選ばれていたが、最近では木星人のみが任命されるようになっている。だが、その職員のほとんどが火星にある大学の出身者であることは周知の事実である。

 彼らは木星における特権階級の筆頭で、通常の木星人とは全く違う法の下におかれている。一種の治外法権のような特権をも有し、また火星からの物資を火星にあるのと同じ値段で購入することが出来る。居住地は都市の中枢に設定されており、そこでは快適な生活を約束されているのだ。いわば王侯貴族階級のような立場におかれていると言っても過言ではないほどの待遇を、彼らは受けることができるのである。もっとも火星に帰れば彼らとてただの一般市民であるのにかわりはない。ただし彼らに木星における定住は認められず、任期の数年が終わると必ず火星に帰らなければならない。

 木星人とは移民者の子孫たちのことである。

 移民者にも移民の種類により、2種類の分類がある。すなわち軍事移民と採掘移民である。

 地球連合軍では軍団単位での配属先の希望を出すことが出来る。だが一度配属されればその配属先が軍団単位で変更されることはほとんどありえなかったので、他星の軍団に配属が決定した場合にはそこに定住するのが基本であった。そのために、好き好んで木星に行こうとする人間が少ないことが懸念された結果、木星における軍人およびその家族も政治家と同じような特権階級におかれることになっていた。そうして、木星方面軍団に配属された軍人とその家族たちが、軍事移民者として木星圏に移住を果たしたのである。彼らは軍人階級とも言うべき層を木星圏につくりだし、その子弟もまた同様の道に進むのが常であった。当初より木星圏において徴兵制はとられてはいなかったが、軍人階級の家庭に生まれた者は、たとえ軍人以外の職業選択をする場合においても、自身の通常教育期間修了後に兵教育を受け、最低でも数年の軍事職に就くのが常になっており、その後に転職したのでなければ、軍人階級の間での信用を得ることはできなかったのである。

 彼らも基本的に都市中枢部に居住権を持っており、特に高官たちはそちらに住むのを好んだが、都市外郭部に住まう人も決して少なくはなかった。そうした都市外郭部分は彼ら軍人階級の下層にある者たちと衛星地主たちによってつくられたのである。

 採掘移民者は木星圏の開発が始まった当初より存在していた植民者に端を発している。今日ではそれらも総称して採掘移民者と称しており、木星圏の人口の99%以上が彼らで占められている。

 ただし同じ木星圏に住む採掘移民者の中でもアステロイドベルトに住む者たちは特別で、彼らはアステロイド人(アステロイドベルター)と呼ばれ、星表面に住む人々とはまったく異なっている。

 


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