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ここでは、「AQUANAUT'S HOLIDAY~隠された記録~」のメイキング風景を紹介していきます。
今回はゲーム中メインの舞台となる「海中」の表現についてのメイキングです。
メイキングオブ海
行方不明の海洋学者を追ったり、シンガーとのコミュニケーションでミームをためたり、 ウミウシを探したり……目的は様々ですが本作ではプレイ時間の大部分を海の中で過ごします。
そのため、私達は海中の表現に最も力を入れました。
特にここでは、水中にかけるフィルタに注目して海中の表現について説明していきます。
海の中の雰囲気を感じてもらうために
本作では海の中を表現するために、専用のフィルタ調整ツールを開発しました。 下の写真が、フィルタ調整中のイメージです。 光と水に関する30以上ものパラメータを駆使して、 太陽光の強さやそれが水中を通る際の散らばり具合などを調整していきました。
オブジェクトとカメラの間に各種設定値を反映させることにより、そこにある「水」を表現します。 その結果、海の中にいる雰囲気をより強く感じることができるのです。 参考までに、水のフィルタをかける前とかけた後の写真を下に並べてみました。
左の方が魚や地形が鮮やかに見えますが、これだと海の中にいるように感じられません。 フィルタをかけて右の状態にすることによって、海の中の雰囲気が出せるのです。
フィルタについて
空気中と違い、海中の光は水の影響を受けます。 一般的に、海中の光は、遠くなるほど見えなくなり、深くなるほど暗くなります。 また、海中の光は、全ての色が均等に伝わるわけではありません。一般的に青い色の方 が伝わりやすいですが、海水の成分によってその伝わり方も異なります。 本作では、これら海中の光の影響をフィルタ処理によってシミュレートしています。
また、潜水艇のライトや光の照り返しなどもフィルタで設定しています。
目指したのは「海中写真のような」海
続いて、実際にフィルタを設定するにあたりこだわった点をご紹介したいと思います。
下の二つの写真は、同じ場所で水の色を濃くしたフィルタと(左)と、透明度を上げたフィルタ(右)を並べたものです。 本当は左の青みが強い方が現実の海の見え方に近いのですが、そのように設定すると画面が全体的に沈んだ色になってしまいます。
ダイビング雑誌などに載っている海中写真では色とりどりの珊瑚や熱帯魚が原色そのままで見えますが、 それは照明を当てて撮影しているからです。 海の中では赤に近い色は目立たなくなりますので、 下の写真のようなカラフルな魚達も照明がないと地味なものとなってしまいます。
しかし、せっかく綺麗な色の魚たちが泳いでいるのに、地味な画面しか見えないのでは面白くありません。 そこで、キシラ環礁の海は現実の海よりも透明度を高くして、 あたかも海中写真の世界がそのまま広がっているかのように、 極彩色の海中を表現しているのです。
深海の怖さを求めて
とはいえ、全ての海で透明度が高く設定されているわけではありません。
例えば深海では、フィルタの透明度が高いと本来よりも強い状態で太陽光が届いてきますので、 明るすぎて深い海の雰囲気にならないのです。
左の写真は表層部の透明度の高いフィルタをそのまま深海に適用したものです。 この状態だと光が強く、海底までハッキリと見えてしまっています。 海中探索にはこちらの方が便利なのですが、深海の底知れない恐ろしさが感じられないという問題がありました。
そこで、暗い深海を作るため水の透明度を落とすことにしました。 できたのが二番目の写真の画面ですが、深海に届くまでに光が水に吸収されてしまうため、 周囲が暗くなりすぎてしまっています。 これでは、せっかくのダイオウイカもほとんど見えません。
最終的には潜水艇のライトなどの効果によって、 近くのものだけ明るく見える深海専用のフィルタを作成しました。 これにより、周囲の暗さを保ったまま見ごたえのあるものを 目立たせることに成功しています。
ゲーム中では一定のラインを超えて深く潜った時フィルタを深海用のものに切り替えることによって、 水面近くでは綺麗な海でも深く潜ると怖くなるように仕上げました。
また、海域の個性に合わせて水の色を調整することにより、 単調にならない変化のある海を演出しています。
水深が浅く透き通った水の「冒険の門」
濃紺だが透明度の高い「アトラスの柱」
「いざないの海」は一風変わった緑の海
このように、本作では場所や状況に合わせて最適なフィルタを用意することによって、 その時のシチュエーションを強く感じさせる海中を表現しました。 そういった私達のこだわりを知っていただくことで、 よりいっそう海中散歩を楽しんでもらうことができれば幸いです。